東京高等裁判所 昭和53年(行コ)61号 判決 1979年7月26日
東京都渋谷区代官山四丁目一番一三〇一号
代官山マンシヨン
控訴人
西村翠
右同所
控訴人
西村純一
右同所
控訴人
西村典子
右同所
控訴人
西村正之
右法定代理人親権者母
西村翠
右四名訴訟代理人弁護士
小林辰重
東京都渋谷区宇田川町一番三号
被控訴人
渋谷税務署長 伊藤貢
右訴訟代理人弁護士
杉浦栄一
右指定代理人
岩田栄一
同
島田三郎
同
鈴木正孝
右当事者間の昭和五三年(行コ)第六一号相続税課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人らに対し昭和四四年七月五日付でした相続税の各更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも昭和四五年五月一一日付裁決で一部取り消された後のもの)のうち課税価格の合計額を七三七二万九〇〇〇円として計算した額を超える部分は、いずれもこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、控訴人らにおいて、甲第二号証ないし第六号証を提出し、証人西村敏男の証言を援用し、乙第二〇、番二一号証の成立を認めると述べ、被控訴人において、乙第二〇、第二一号証を提出し、甲第二、第三、第五、第六号証の成立は認める、第四号証の成立は知らないと述べたほかは、原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決一二枚日裏六行目に「第三、四号証の各一、」とあるのを削除し、同一三枚目表一行目に「その余」とある上に「乙第三、四号証の各一は、西村総本店作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は知らない。」を附加する。)であるから、これを引用する。
理由
当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断するものであり、その理由は、次のとおり附加、訂正するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
一 原判決一四枚目裏一〇行目に「成立に争いのない」とあるのを「西村総本店作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については原審における証人緒方奎太の証言により真正に成立したものと認める」と訂正する。
二 原判決一七枚目表一行目に「乙第三号証」とある下に「の一」を附加する。
三 原判決一七枚目表八行目に「乙第三号証中これと異なる記載」とあるのを「甲第五、第六号証及び乙第三、第四号証の各一の各記載並びに当審における証人西村敏男の証言中これと異なる」と訂正する。
四 原判決一七枚目裏九行目から同二一枚目表末行までを次のように訂正する。
「 前掲乙第三号証の一、第一〇、第一四、第一七号証、成立に争いのない甲第三、第五、第六号証、乙第二、第六号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証の一ないし四〇、西村総本店作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については原審における証人緒方奎太の証言により真正に成立したものと認める乙第四号証の一、山下陸奥男の署名押印部分については成立に争いがなく、その余の部分については原審における証人依田誠の証言(第一回)により真正に成立したものと認める乙第七号証、原審における証人柳沢信久の証言により真正に成立したものと認める乙第九号証、原審における証人柳沢信久、同依田誠(第一、二回)及び同緒方奎太並びに原審における証人西村敏男(後記措信しない部分を除く。)の各証言を総合すると、
(1) 本件預金の新約、解約の関係を遡ると、昭和三六年一〇月末現在において既に本件預金金額中のかなりの金額、すなわち、控訴人ら側の調査によれば六〇〇〇万円余り、被控訴人側の調査によれば三七〇〇万円余りが預金として存在し、右預金は、その後昭和四〇年一〇月末まで毎年被控訴人側の調査によれば一一〇〇万円以上(ただし、昭和三七年一一月一日から昭和三八年一〇月末日までの一年は五〇〇万円余り)、控訴人ら側の調査によっても六〇〇万円前後と預金利率をはるかに上回わる増加を示していること、
(2) 西村総本店では、控訴人西村翠の夫である西村正(昭和四一年一月死亡)の社長時代から売上げの一部を除外してこれを簿外にするという方法で所得の一部を隠ぺいしていたこと、右売上除外の具体的方法は、昭和三八年九月以降については、本店一階果実部においては毎日午後八時三〇分から午後一〇時までの間の売上金全部を、また、同店二階パーラー部においては毎日の売上金の約一割をそれぞれ簿外にするという方法がとられ、これによる売上除外額は、一日当り、おおよそ果実部では二万円ないし三万円、パーラー部では一万五〇〇〇円ないし二万円程度であつたこと、果実部の売上除外は昭和四二年一月ころ中止されたが、パーラー部の売上除外はその後も継続されたこと、
(3) 西村総本店では、西村末子が昭和四二年九月ころ社長西村敏男の要望をいれて右時点における仮名又は無記名の預金総額一億円余りのうち三〇〇〇万円余りを同店に提供したとして、結局、本件預金の一部が同店に帰属するものであることを認めていること、
(4) 控訴人らが西村勉の預金であると主張する前記三和銀行尾山台支店の安藤光一名義の預金は、同銀行の行員が西村総本店に赴いて現金で受領してきたものであること、
(5) また、控訴人らが本件預金等の大部分の帰属者であると主張する西村末子は、昭和四〇年当時六七、八歳(明治三三年生れ)の老女で、肝臓の手術を受けたり、血圧の状態が不良であったりして、家に引きこもっており、毎年西村総本店の会長として同店から支給される七二万円ないし七八万円程度の役員報酬のほかには多額の預金をしうるほどのまとまつた収入はなかつたこと、
以上の事実を認めることができ、右認定に反する乙第五号証の記載部分及び原審における証人西村敏男の証言の一部は措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
そして、右認定の諸事実を総合勘案すれば、西村総本店においては昭和三六年以前より売上げの一部を除外してこれを簿外預金等として蓄積していたもので、先に認定した本件各預金及び有価証券は、すべて西村総本店の右売上除外を資金として構成された同店の簿外の資産であって、同店に帰属するものであると誰認するのが相当であり、甲第二、第三、第五号証、乙第四号証の一、第五号証の各記載並びに原審における証人和田金重、原審及び当審における証人西村敏男の各証言中右認定に反する部分は採用することができない。」
それゆえ、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林信一 裁判官 高野耕一 裁判官 石井健吾)